オフシーズンの遊園地。

 

責任者は3日間の休園を決行し、前日の午後7時に園内全てのアトラクションを停止させた。

  

 


 

離す気もなく、言わせたくせに
 

  

  

どこからともなく、気味の悪い鈴の音がする。

そう訴えた遊園地の責任者に、SPRの若き所長は当初、その綺麗な顔を一ミリも動かすことなく拒絶の意向を

伝えようとした。

しかし責任者は多くの証言とともに、実際に鈴の音が録音されたテープを持参し、その上で3日間と期間を限定

し、その調査で異変がなければもちろん撤収してもらって構わないと食い下がった。普段であればそれでも一度

難色を示した調査に所長が決断を覆すことはないのだが、その持ち込んだテープの一部から奇妙な音が検出さ

れたことから、その調査は3日間の期間限定の元、SPR正規メンバーの4名で実施されることとなった。

 

 

「何か、怖いみたいだね」

 

 

全てのアトラクションが沈黙を持って迎えた夕暮れ時の園内で、調査員の谷山麻衣は薄気味悪そうに顔を顰めた。

「何か感じるんですか?」

同じアルバイト事務員の安原が声をかけると、麻衣はふるふると首を振った。

「そういうんじゃないけど、ほら、本来人がいるべき場所が無人だと何となく気味が悪いでしょう?」

ああ・・と、安原は小さく頷き、学校や公園も夕暮れになると変に物寂しいですよね。と、相槌を打った。

マイクケーブルを抱えたまま、麻衣が立ち止まり、近くのメリーゴーランドを眺めていると背後から不機嫌そうな

声が響いた。

「そもそも、僕らが調査に来る場所は薄気味悪い所が大抵だと思いますが?」

振り返れば、その薄く沈んだような空気によく似合う、端正な顔立ちの男が佇んでいた。

その男はSPR日本支部の所長にして、その薄気味悪い場所を仕事場に選んだ張本人。

その無表情な顔からは何の感情も読み取れないが、そこから発せられる空気が雄弁に早く働けと麻衣を急かし

ていた。麻衣は小さく舌を出し、ベースに当てられた職員休憩室に向かって再び歩きだしながら、横を歩くその

美しい人に声をかけた。

「でもさ、気味が悪いのは確かでしょう?」

「まぁな」

「こんな時間にこんな場所ばっかりなんて、因果な商売だと思ってる?」 

「別に」

あくまでそっけない美貌の御仁に、麻衣はやれやれとため息をついた。

「まぁねぇ、ナルに昼間の遊園地なんて逆立ちしたって似合いそうもないからね」 

「興味もないな」

「本当にあんたには適職だよ、この仕事」

うんざりと肩を落とす麻衣に、横を歩く漆黒の美人、ナルは薄く微笑んだ。

 

  

止まった観覧車。

息を潜めるジェットコースター。

ひたひたと近付いてくる夕闇。 

人気のない売店、チケット売り場、アトラクションの入り口。

原色の小旗が寂しくはためく園内では、確かに心霊現象以外の何ものも似合わない。

 

 

夜の闇がよく似合う男は、昼の太陽がよく似合う恋人に何気なく尋ねた。

「麻衣は昼間の方がいいと?」

「そりゃそうでしょうが、これじゃ一つも遊べないもん。楽しくないじゃん。本来の目的から外れてるよ」

「仕事だから仕方ないだろう」

「ここは本来遊びで来る場所なの!」

「遊びたいのか?こんな遊具で?」

「あ そ び た い よ !」

「へぇ」

「ちょっと今、心の底から馬鹿にしたでしょう。何も遊園地来たいのは私と子どもだけじゃないんだからね」

「それは初耳」

「常識外れ」

「馬鹿馬鹿しい」

「同じことをウォルト・ディズニーに言ってみろ」 

「ディズニー?」

「少なくともあんたの年収とか、パトロンからの支援金をかるくオーバーする年収稼いでいるんだからね!

それだけ需要があるってことでしょう」

「比較対象が違い過ぎるだろう。話にならない」

「私は遊園地で遊びたいのはごく一般的な欲求だって言いたいの!ナルみたいに興味ない方が少数意見

なんだから。その辺は理解してよ。遊園地っていったらごく一般的なデートコースなんだからね」

ナル相手じゃ、望むべくもないけどさ。と、唇を尖らせる麻衣に、ナルは小馬鹿にしたようにため息をついた。

「そんなに遊園地へデートに来たいなら、僕と別れれば?」

冷ややかな眼差しを麻衣が睨み返すと、言った本人は気のない素振で肩をすくめた。

「僕が仕事以外で遊園地なんかに来るはずがないだろう。ないものねだりは無駄だ。それだけ一般的な楽しみ

方を実践したいなら、僕とは別れて、もっと普通のつまらない男と普通のデートをするしかないんじゃないか?」

さらりとのたまうナルに麻衣はしばしあっけに取られたが、すぐに眉間に怒りの皺を刻んだ。  

「デートのために別れろって?」

「違うのか?」

「ばっっっかじゃないの?!何でそういうこと平気で言うかなぁ!」

ショックを受けたような顔をしながら、大声で怒鳴り返す麻衣にナルは心底意外そうな表情を浮かべた。

「要約すればそうだろう」

「どっこも要約なんかされてないよ!どうしてそういう話になるの」

あわや泣き出しそうな麻衣を見下ろし、ナルは頷いた。

「麻衣は僕を選ぶことを前提にしているんだな」

「当たり前でしょう!」

「では、世間一般のデートなど望まないことだな」

 

「もう、そんなのいいもん!」

 

即答して、

そこで、

麻衣はようやく自分が言わされた言葉の意味に思い当たり、涼しい顔をして横を歩く恋人を信じられないもの

でも見る目で見上げた。見上げた先では、口の悪い美人が満足気に口の端を吊り上げていた。

「やぁ、所長愛されてますね」

半歩先を歩いていた安原がちらりと振り向きそこに追い討ちをかける。

「熱烈な愛の告白なんて、谷山さんラブラブですね。照れちゃうなぁ」

「・・・・・っっ」

麻衣は苦虫を噛み潰したような顔をして、ダッシュでその場から走り去った。

 

 

 

 

走り去る小さな後姿を見送りながら、先を歩いていた安原は僅かに歩を緩め、後続のナルの横に並んだ。 

「所長、楽しそうですね」

「あまりのレベルの低い会話にバカになったようで気分が悪いです」

憮然と答えるナルに、安原は低く笑った。

「その割には顔がゆるんでますよ」

反射的にナルは口元を強張らせたが、直に安原の視線に気がつき、ごく上品な笑みをその口元に浮かべた。

 

「せっかくですので、少しくらい嬉しがっても構わないでしょう?」

 

恋人を離す気もなく、言わせたくせに、あっさり言い張る上司に、有能な部下はこみ上げる笑い声を必死に押し

込めて、口元に指をあて、こほりと咳をした。

「ま、よろしいんじゃないですか」 

 
 

 

言い訳・あとがき

30,000番 流様からのキリリク 『ナルが感情をあらわにする話』 です。

脳内イメージが凝り固まっていたせいでしょうか・・・えらい難しかったです。今回のリクエスト。

キーワードに「感情」って出ているので、簡単に考えれば「怒っているナル」とか「ジェラっているナル」とかが一番わかりやすかったのですが、それだと以前書いたssにカブるなぁと思い、何とか別の感情はないものかと探し、ナルの感情がいかに希薄なのかと今更ながら思い知らされました(爆)

で、選んだ感情は 喜怒哀楽からいったら、『 喜 』ってことで…

感情をいかんなく発揮しているのはどう見ても麻衣だ・・・ナルじゃない。ナル嬉しがっているだけだ orz

ゴメンナサイ流様。何か色々ナルイメージの間違っている私にはこのくらいしか書けませんでした。今の所はとりあえず、これで勘弁して下さい。もちろん返品可能です。リクエスト本当にありがとうございました。

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