転校初日にしてクラスメイトと禍根を残した優人の、その後の生活は優人が危惧した通り最低のものとなった。

 

 

 

 

       

 

 

 

鳴く声

 

 

優人が口を滑らせたことは、それをヒアリングできたクラスメイト、山崎和正により醜悪に改悪され流布された。そして女子からは完全に無視され、男子からの手酷くからかわれるようになったのだ。

が、そもそもの原因は不用意な自分の悪口からだ。

優人はその負い目からあえて弁明せず、大人しくしていたのだが、その態度が生意気だと更にクラスの中で更に孤立していくようになった。そしていつの間にか順調にクラスに馴染んでいった晴人に逆に心配されるようにまで事態は悪化したのだが、優人はその心配のことごとくも無視した。

悪いのは確かに自分なのだから、それの報復がこの環境なら仕方のないことだという諦めがあった。

そしてどこかで自分だけが悪いわけではないという意地を捨てきれず、強情を張っていた所もあった。

 

 

 

そんな日々が2ヶ月も続いたある日。

優人は帰りがけに山崎とその友達の3人組に声をかけられた。

 

 

 

 

「なぁ、ここの側に幽霊屋敷があるの知ってるか?」 

 

 

 

 

突然振られた話題に優人は不信感を持ったが、これ以上関係を悪化させるのは得策ではないと優人は曖昧に首を横に振った。

「知らない」

その返事に声をかけた3人は含み笑いをしつつ優人の側に近付き、優人の鞄に手をかけた。

「有名な場所があるんだよ。元は金持ちのお屋敷だったらしいんだけど、女の声とか赤ん坊の声がするんだってさ」

「へぇ・・・」

父親の仕事柄、大して興味を感じない優人の薄い反応に、3人は優人が怯えていると思い込みにやにやと笑いながら優人の肩に腕を回した。

「これからそこに探検に行くんだ。谷山、お前も来いよ」

「何も夜中に行くわけじゃないんだから、怖くなんてないよな?」

『 それとも怖い? 』

嫌味臭く英語で尋ねてくる山崎に、優人は僅かに疲れを感じてため息をついた。

いつまでも転校生虐めとは、随分凝り性だ。

と、内心で舌を出したのが分かったのか、3人は面白くなさそうに顔を見合わせるとバカにしたような笑みを浮かべ、優人の肩を掴んだ手に力を込めた。

「平気だって、ついて来いよ」

「せっかく誘ってやってんだからさぁ」

「悪いけど、興味ない」

優人が面倒そうに首を傾げると3人は声高に笑った。

「興味ないだって!」

「どっこまでも偉そうだな、こいつ」

「何様だと思ってんの?」

とたんに機嫌の悪くなった3人を見比べつつ、優人はそれを無視して帰ろうとした。

しかしそこで1人が爆弾を落とした。

 

 

「いいよ、お兄ちゃんがどうしても行けないっていうんなら弟連れて行くから」

 

 

さっと顔色を変えた優人の顔を覗き込みながら、それを言った男子はにんまりと微笑み続けた。

「弟?」 

「谷山にはさぁ、1年に弟がいるんだよ」

「あの小さいヤツだろ?」

「役に立ちそうにないじゃん」

「見るからに気ぃ弱そうだよなぁ。泣かれてかえって邪魔になりそうじゃね?」

「でも霊感あるらしくてさ、1年の中では有名なんだよ」

「へぇ」

「嘘くさ!」

それぞれに勝手なことを言う仲間内を見渡し、ネタをふった男子は愉快そうに説明を続けた。

「結構当たるらしいよ?女子とか面白がって休み時間のたびに押しかけているみたいだし」

「ふぅん・・・」

「都合良くない?谷山より弟連れて行こうぜ」

「本当に当たるのかよ?」

「知らないけど、外れたらそれはそれで別にいいじゃん。兄弟そろって嘘つきだっていうだけだろ?」

「そうだなぁ・・・・まぁ、面白そう」

「な?」

「名前なんて言ったっけ?」

「確か、はると って言ってたよ」

「そうそう、 "ゆうと" に "はると" だ」

「それじゃ "はると" ちゃんを連れて行こうぜ」

  

 

その瞬間、優人の中で2ヶ月間、沈黙を守って堪えていた何かが音を立てて切れた。

 

 

そもそもそれほど忍耐強い性格ではない。

あわせて2ヶ月間溜めに溜まったストレスもあった。

しかし何より致命的だったのはそこで晴人の名前を出されたことだった。

自分のことなら我慢もできるし、見逃してやろうという気にもなるが、それが晴人のことであれば話は別だ。

 

 

絶対に許せない。

 

  

優人はギロリと眼光鋭く3人を睨み上げ、肩に置かれた手を力を込めて引き剥がした。

 

「たっっ」

「子供だましにわざわざ本物を登場させるまでもないだろう」

「あぁ?」

 

突然好戦的に言い放った優人に3人は食って掛かろうとしたが、そこに潜んだ残忍な眼差しに反射的に言葉をなくした。

白く整いすぎた容貌の中心にある闇を凝縮したような瞳。

そこには明らかな敵意。もっと言えば残忍な殺意すら潜んでいた。

それは通常ではまずお目にかかれない異質なものだった。

突如現れた野性動物のような獰猛さに、3人が息を飲むのを横目に、優人は冷ややかに口の端を吊り上げ言った。

  

 

「 いいよ、付き合ってやる。案内しろよ 」

 

  

その迫力に押されるようにして、3人は何故か従順に首を縦に振った。

 

 

     

     

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